炭鉱の最深部で叫んだ夜がまぶしすぎる
- 飯塚 祐介
- 10月9日
- 読了時間: 3分
—坑道の空気は、乾いた鉱塵と金属の匂い。
「おい!俺たちのミッションは一つ。今日こそ“伝説級”を引っ張り上げるぞ」ロベルトがヘッドランプを上げた。「任せろって。オイラ、鼻が告げてる。今日は当たり日だ」トマソンはピッケルを肩に、足取りが軽い。「私は静かに期待しておきます。記録帳は用意済みです」ノーチェルは無口に頷く。
天井は低く、道は糸のように細い。時々、遠くで水が落ちる音。「右だ左だ」先頭のトマソンが指差す。「西に行くって事か!」とロベルト。「いや右に行くってことだよ!」ノーチェルが淡々と訂正。――小さなすれ違い、そして笑い。息が少し軽くなる。
崩れかけの棚の奥。布にくるまれた直方体がぽつん。「開けるぞ」ロベルトの手が震える。「……おおい、光るぞ」トマソンの声がひとつ高く跳ねた。布が落ちる。坑道のライトが跳ね返る。

「おい!俺はこんなのを見つけてきたぜ……いや、落ち着け俺。まだ叫ぶな」ロベルトが自分にブレーキ。「CONTAX RTS…GOLD…BODY」ノーチェルがゆっくり読み上げた。
「オイラの嗅覚、やっぱ神だな」「認めざるを得ませんね」ノーチェルが眼鏡を押し上げる。「これはコンタックス CONTAX RTS GOLD BODY。ヤシカの創業30周年を記念して1977年に限定生産された特別仕様の35mmフィルム一眼レフです。金属部は24金メッキ、そして通常モデルの黒い革張りの代わりに、ワインレッドのリザード革――個体によってはブラウン――が使われる。成熟したコレクターの棚に静かに置いて、語られるべき一台ですね」
ロベルトがうなる。「希少、って言葉は便利だが、実際どれほど“欲しくなる”んだ?」「手に入れた瞬間に過去が確定する。記念モデルは“その年の思想”が固定されるんです」ノーチェルは指先でエッジをなぞる。「標準機の実用性に、祝祭の文脈が重なる。RTSの設計思想に“1977”が刻印された感じ。だから市場に流れても、時間がまた連れ戻してしまう」「つまり、飾って終わりじゃないのか?」「もちろん。35mmフィルム機として撮れる。けれど外装の特別仕様は現役使用時の取り扱いに注意が要る。そこがまた、収集家の腕の見せどころです」
トマソンがニヤリ。「写真も撮れて、棚でも輝く。二刀流だな」「二刀流というより“儀礼と実戦”。記念の金装と、内部の確かさ。その両立が魅力です」ロベルトは頷いた。「熟年の棚に置いたときの説得力、想像できる。来歴まで含めて一枚の写真みたいだ」
坑道の壁に反射した金色が、みんなの顔色まで少し明るくする。「ところでロベルト」ノーチェルが咳払い。「さっきから“金メダル見つけた”みたいに握りしめてますが」「違う、これは俺たちの歴史のピースだ」ロベルトは真顔で言って、ふっと照れた。「…重さのバランス、いいな。指が勝手に巻き上げレバーを探してる」トマソンが肩をすくめる。「その気持ちは分かる。オイラも今、帰ったらケースを磨き上げたくなってきた」

帰路。地上の風は冷たい。「今日のミッション、達成だな」「はい。記録:発見場所、埃の状態、付属の布。すべて良好」ロベルトが顔を上げる。「じゃあ決まりだ。店で、誠実に待ってる誰かへ渡そう。希少だからこそ、丁寧に」
――坑口に着く。トマソンが振り返る。「ところで、宴は?」「もちろんだ」ロベルトが笑う。「だが先に手洗いと手袋。金装の相手は礼儀からだ」

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