炭鉱の作業台で決断。カロリーの中判を出します
- 飯塚 祐介
- 11月5日
- 読了時間: 3分
坑道上がり、作業台に集まる三人。湯気の立つマグカップと軍手。
「ねーみんな」カロリーがそっと箱を置く。「僕の、大事なやつ…出そうと思うんだ」
「お?」ロベルトが眉を上げる。「俺、てっきりごちそうを隠してるのかと思ったぞ」
「私も少し驚きました」ノーチェルがメガネを拭く。「理由を聞いても?」

カロリーは角の擦れも愛おしそうに撫でた。黒い塊、金属の重み。
「僕ね、次の人にスナップで使ってほしい。現場向きのカメラだからさ」
「現場気質ねぇ。いい言葉だ」ロベルトがニヤリ。「で、何を?」
「MAMIYA M645 1000S 80mm F2.8 AEファインダー セット。僕の相棒」
ノーチェルが身を乗り出す。「皆さん〜!私、少しだけ言わせてください」
「始まったぞ」ロベルトが笑う。
「このセット、骨組みが実直です。ボディは手の中で“道具”として落ち着く。80mm F2.8は中判らしい面の出方で、距離感が素直。AEファインダーが載るので露出の判断が一手早い。中判スナップ派には、移動と決定のテンポが作りやすい。つまり“迷わず切る”側に寄ってくれるのです」
「うん、僕もそう感じてた」カロリーがうなずく。「手袋でもダイヤル迷子にならないし」(余談:作業台の上のシチュー、いい匂い。煮込み時間の長さと、カメラの“待てる強さ”って似てる)
ロベルトが顧客目線でうなる。「でもさ、スナップ前提なら、重さや取り回しは?」
「私、そこは正直に」ノーチェル。「軽い部類ではありません。だからこそ握りの安定が画に現れる。勝ち負けで言えば“速さは35mm、踏ん張りはこの子”。肩から下げて歩く前提で、ショットごとに準備が整う感触があります」
「ふむ。じゃあ“瞬発は人の勘、機械は土台”って感じか」
「まさに。さらにAEファインダー付は、現場で迷いを一つ減らす。光を見てから歩幅を決めるようなものです」

カロリーが笑う。「僕の足もそれで何度助かったか。いや、落ち着け僕。もう僕の足じゃなく次の人の足だ」僕が持ってるより、街角で働いた方がいい」
しばし沈黙。炭鉱の換気扇だけが回る。ロベルトが手を打つ。「よし、出そう。中判スナップの手に届ける。俺が写真を撮るなら街角の風と一緒がいいが、そこは買う人の流儀だ」「私、商品ページに“骨組みだけ”の要点を書きます。AEファインダーで判断が速いこと、80mmで人にも街にも寄りやすいこと。誇張なし、事実だけ」「僕、最後に一回だけ拭いてから出品するよ。ありがとう」カロリーは深く息をついた。
三人で作業台を片づける。カメラが中央へ。ロベルトがふと首をひねる。「なぁ、出品コメントに“炭鉱で鍛えた”は入れないぞ?」「入れないよ」カロリーが苦笑い。ノーチェルが一拍置いて指摘する。「ところでロベルト、さっきからそのカメラ、上下逆ですよ」「え。…お、おう。重みで気づいてた。たぶん」「たぶんじゃない」カロリーが笑って受け取り、正しく置き直す。
灯りを落とす前、カロリーがぽつり。「次の人、いい足取りで歩けますように」「歩かせるのは人、支えるのは道具」ノーチェルがうなずく。「そして俺らは橋渡し」ロベルトが肩を叩く。「さ、出品ボタン、行くぞ」

商品出品ページ



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