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洞窟最深部で交わす一本勝負。300-600mmという選択

  • 執筆者の写真: 飯塚 祐介
    飯塚 祐介
  • 1月27日
  • 読了時間: 2分

洞窟の奥、天井の低い通路に三人分の足音が重なる。今日は珍しく、掘る前から空気がピリッとしていた。


「……ここ、音が違うな」ロベルトが立ち止まり、岩肌を軽く叩く。

「勘だが、奥に“重い”のがある。いや、落ち着け俺。まだ見えてないだろ」


「ふふ、また始まった」プラムはランタンを少し高く掲げる。

「でも、今日は私も分かる気がするの。なんというか、職人さんが黙っちゃう時の空気」


「オイラはもう確信してるぜ」トマソンが鼻を鳴らす。「この先だ。手先がうずく。これは“でかい仕事”の前兆だ」


数歩進んだ先、岩棚の影に鎮座していたのは、黒く長い金属の塊。三人が一斉に息を呑む。

「……300-600mm、しかもF4だと?」ロベルトの声が低くなる。

「ちょっと待て、これ全部一本か?」


「正確にはズームね」プラムが覗き込みながら首を傾げる。「でも、見た目はもう単焦点の覚悟を感じるわ」


「SIGMA 300-600mm F4 DG OS SPORTS。ライカLマウント」トマソンが即答する。「しかも、滅多に出回らない個体だ。レアもの、文句なし」


ロベルトは腕を組み、じっとレンズを見つめる。「正直に言うぞ。プロが気にするのは“すごさ”より“信頼”だ。長時間振り回せるか、結果を裏切らないか」


「そこよね」プラムがうなずく。「重そうだけど、不安な感じはしない。むしろ、余計なことを考えさせない顔してる」


「オイラの感覚だが」トマソンがマウント部を指でなぞる。「作りが雑なら、ここで分かる。……問題なし。いや、良すぎるくらいだ」


一瞬、ロベルトが笑う。「指先が勝手にズーム回しそうだな。控えめに言っても、現場向きだ」


「ただね」プラムが少しだけ間を置く。「これを必要とする人は、もう分かってる人だけ。誰にでも勧めるものじゃない」


「それでいい」ロベルトは即答した。「希少ってのは、選ばれる側じゃない。選ぶ側が限られるってことだ」


トマソンがニヤリとする。「つまり、分かる奴にだけ届けばいい。オイラはそういう道具が好きだ」


洞窟を出る頃、三人の会話は自然と現場の話になっていた。どんな距離で、どんな被写体で、この一本を使うか。夢物語じゃない、具体的な段取りの話だ。


「結局さ」プラムがぽつりと言う。「今日の主役、誰だったの?」


ロベルトが肩をすくめる。「レンズだろ。俺たちは運んだだけだ」

その言葉に、誰も反論しなかった。



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