坑道の奥で銀が鳴いた ― トリエルマーM 28-35-50mm、静かな発掘記
- 3 日前
- 読了時間: 3分
雨の音がする坑道だった。地下に雨は降らない。それでも、水が岩を伝う音は雨に似ている。ロベルトはランタンを持ち直し、湿った岩壁に耳を寄せた。
音は三日前から続いていた。低く、規則正しく、何かを叩くような音だ。仲間たちは気味悪がって近寄らなかった。ロベルトだけが毎晩ここへ来ていた。
「気のせいじゃねぇ」
背後で足音が止まった。カロリーが、ツルハシを二本抱えて立っていた。
「一人で掘るの、大変でしょ。僕、手伝うよ」
ロベルトは答えなかった。代わりに、片方のツルハシを受け取った。それで十分だった。

音は、岩の向こうから聞こえていた
二人は無言で掘り進めた。カロリーの腕は太く、一撃ごとに岩が砕けた。ロベルトは狭い隙間に手を伸ばし、崩れた石を掻き出していく。
三時間が過ぎた。カロリーの息が上がってきた頃、ツルハシの先が何かに触れた。金属の音だった。
「ロベルト、これ」
ランタンを近づける。岩の裂け目の奥に、銀色の何かが埋まっていた。ロベルトは慎重に周囲の土を払った。指先に冷たい金属が触れる。刻印がある。
引き出すのに、さらに一時間かかった。
手のひらに乗ったのは、小ぶりなレンズだった。銀色の鏡胴。細かな刻印。前面には黒く沈んだガラス。ロベルトは動かなかった。ただ、それを見つめていた。
「……ロベルト?」
返事はない。カロリーが心配になって顔を覗き込むと、ロベルトの目が、いつもより大きく開いていた。
「銀だ」
それだけ言って、彼はまた黙った。

三つの目を持つ宝
坑道を出た二人は、作業台の前に座った。ロベルトはレンズを光にかざした。それが彼の癖だった。どんな宝も、まずガラスの中を確かめる。
ライカ トリエルマーM 28-35-50mm F4 ASPH. シルバー 11890。
28mm、35mm、50mm。三つの画角を、一本で切り替えられるレンズだ。広く撮る目、素直に写す目、寄って狙う目。それが一つの鏡胴に収まっている。
「一本で三つ分ってこと? すごいねぇ」
カロリーが身を乗り出す。ロベルトはレンズを回して見せた。カチリと軽い音がして、内部の構成が変わる。カロリーの目が丸くなった。
「じゃあ、あの音って」
ロベルトは首を振った。音の正体はわからない。岩を伝う水だったのかもしれないし、そうでなかったのかもしれない。彼はそれを追わなかった。掘り当てたものが全てだ。
光にかざしたガラスは、澄んでいた。カビも曇りもない。外観に目立つスレやキズも見当たらない。長い時間を岩の中で過ごしたにしては、驚くほど綺麗な個体だった。
ロベルトは布を取り出し、丹念に拭き始めた。動作を確かめ、各部を点検する。無言のまま、一時間。
「ねぇ、ロベルト」
カロリーが遠慮がちに口を開いた。
「宴、やる?」
ロベルトは手を止めた。そして、初めてわずかに口の端を上げた。
「やるに決まってんだろ」

宝は、棚に飾るものではない
その夜、坑道の入口で火が焚かれた。仲間たちが集まり、ジョッキが鳴った。カロリーは五杯飲んでも顔色ひとつ変えず、周りに笑われていた。
ロベルトは輪の端に座り、銀のレンズを膝に置いていた。付属していたのはフロントキャップ、リアキャップ、フィルター、そして革のケース。すぐに現場へ持ち出せる装いだ。
「この銀、僕たちで使わないの?」
カロリーの問いに、ロベルトは炎を見つめたまま答えた。
「宝ってのは、棚に飾るもんじゃねぇ。持ち出してこそだ」
だから、次の持ち主に渡す。それがドワーフの流儀だった。
ロベルトとカロリーが掘り当てたこの一本は、商品ページを見るから引き取ることができる。
火が小さくなる頃、坑道の奥から、また例の音が聞こえた気がした。ロベルトは振り返らなかった。
掘るべきものは、まだ地下に眠っている。



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