トロフィーを掴む覚悟はあるか
- 2 日前
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坑道の奥は、いつも静かすぎる。ランタンの油が焦げる匂いと、岩肌を伝う水の音。それ以外には何もない。あるはずがない。
その夜、ロベルトは単独で第七坑道へ降りていた。仲間は止めた。ここ数日、奥から妙な音が聞こえる、と。低く、規則正しく、まるで誰かが金属を磨いているような音だった。だがロベルトは肩をすくめただけだった。発掘屋に、休む理由などない。

音は確かにあった。岩の継ぎ目の向こう。ロベルトはツルハシを置き、素手で土を払った。指先が、冷たい金属に触れる。
掘り出したそれは、黒く、太く、ずしりと重かった。鏡胴の側面に走る一本のリング。先端には、底の見えない硝子の眼。ランタンの灯りがその硝子に吸い込まれ、奥で青白く反射した。ロベルトは息を呑んだ。
「……トロフィーか」
男の口から漏れたのは、それだけだった。優勝者だけが掲げることを許される、あの黄金の杯。形は違う。だが放つ気配が同じだった。勝者の風格。手にした者を選ぶ、傲慢なまでの存在感。
知識こそが、力
地上の小屋に戻ったロベルトは、それをテーブルに置いた。仲間たちが集まる。中でもノーチェルは、宝を見るなり目の色を変えた。普段は眠そうな細い目が、わずかに開く。

「これは……ニコン Nikon AF-S VR-NIKKOR 70-200mm F2.8 G ED。望遠ズームの王です」
ノーチェルはレンズを持ち上げ、リングを指でなぞった。口数の少ない男が、こういうときだけは止まらない。
「F2.8。通しの大口径。望遠端まで明るさが落ちない。EDガラスが色のにじみを抑え、VRが手ブレを抑え込む。スポーツも、舞台も、遠くの一瞬を、こいつは逃さない。トロフィーのようだとロベルトは言いましたが……あながち間違いではない。これは、勝負の道具です」
ロベルトは腕を組んだまま聞いていた。能書きは好きじゃない。だが、悪い気はしなかった。
「状態は」
「鏡胴のボディ側、角に小さな傷が少々。レンズ内に微細なチリ。ですが撮影には影響ありません。オートフォーカスの異音もなし。動作確認済み、各部点検済み……つまり、すぐに戦場へ出せる、ということです」
ノーチェルはレンズフードとキャップを並べた。フロント、リア、そしてフード。役者は揃っている。
あの音の正体
宴の支度が始まった。だがロベルトの頭からは、坑道で聞いたあの音が離れなかった。誰かが金属を磨いていたような、低く規則正しい響き。

ノーチェルが、グラスを片手に静かに笑った。一杯目だけは、この男も飲む。
「あれはきっと、レンズ自身の音ですよ。長いあいだ闇に埋もれて、誰かに見つけてもらうのを待っていた。手入れを怠らなかった証拠が、あの音です。磨かれ続けた道具は、自分で鳴るんです」
馬鹿げた話だ。ロベルトはそう思った。だが、否定する言葉は出てこなかった。グラスがぶつかる。乾いた音が、小屋に響いた。
「さぁ、宴だ」とロベルトは言った。短く、それだけ。
闇の中で誰かを待っていた一本の望遠レンズ。次にそれを掲げる勝者は、まだ決まっていない。ロベルトが掘り当てた今回の宝物は、こちらから引き取ることができる。トロフィーは、それを掴む覚悟のある者の手に渡る。
Even a dwarf is strong.



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