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トロフィーを掴む覚悟はあるか

  • 2 日前
  • 読了時間: 3分

坑道の奥は、いつも静かすぎる。ランタンの油が焦げる匂いと、岩肌を伝う水の音。それ以外には何もない。あるはずがない。

 

その夜、ロベルトは単独で第七坑道へ降りていた。仲間は止めた。ここ数日、奥から妙な音が聞こえる、と。低く、規則正しく、まるで誰かが金属を磨いているような音だった。だがロベルトは肩をすくめただけだった。発掘屋に、休む理由などない。

 



音は確かにあった。岩の継ぎ目の向こう。ロベルトはツルハシを置き、素手で土を払った。指先が、冷たい金属に触れる。

 

掘り出したそれは、黒く、太く、ずしりと重かった。鏡胴の側面に走る一本のリング。先端には、底の見えない硝子の眼。ランタンの灯りがその硝子に吸い込まれ、奥で青白く反射した。ロベルトは息を呑んだ。

 

「……トロフィーか」

 

男の口から漏れたのは、それだけだった。優勝者だけが掲げることを許される、あの黄金の杯。形は違う。だが放つ気配が同じだった。勝者の風格。手にした者を選ぶ、傲慢なまでの存在感。

 

 

知識こそが、力

 

地上の小屋に戻ったロベルトは、それをテーブルに置いた。仲間たちが集まる。中でもノーチェルは、宝を見るなり目の色を変えた。普段は眠そうな細い目が、わずかに開く。

 



「これは……ニコン Nikon AF-S VR-NIKKOR 70-200mm F2.8 G ED。望遠ズームの王です」

 

ノーチェルはレンズを持ち上げ、リングを指でなぞった。口数の少ない男が、こういうときだけは止まらない。

 

「F2.8。通しの大口径。望遠端まで明るさが落ちない。EDガラスが色のにじみを抑え、VRが手ブレを抑え込む。スポーツも、舞台も、遠くの一瞬を、こいつは逃さない。トロフィーのようだとロベルトは言いましたが……あながち間違いではない。これは、勝負の道具です」

 

ロベルトは腕を組んだまま聞いていた。能書きは好きじゃない。だが、悪い気はしなかった。

 

「状態は」

 

「鏡胴のボディ側、角に小さな傷が少々。レンズ内に微細なチリ。ですが撮影には影響ありません。オートフォーカスの異音もなし。動作確認済み、各部点検済み……つまり、すぐに戦場へ出せる、ということです」

 

ノーチェルはレンズフードとキャップを並べた。フロント、リア、そしてフード。役者は揃っている。

 

 

あの音の正体

 

宴の支度が始まった。だがロベルトの頭からは、坑道で聞いたあの音が離れなかった。誰かが金属を磨いていたような、低く規則正しい響き。

 



ノーチェルが、グラスを片手に静かに笑った。一杯目だけは、この男も飲む。

 

「あれはきっと、レンズ自身の音ですよ。長いあいだ闇に埋もれて、誰かに見つけてもらうのを待っていた。手入れを怠らなかった証拠が、あの音です。磨かれ続けた道具は、自分で鳴るんです」

 

馬鹿げた話だ。ロベルトはそう思った。だが、否定する言葉は出てこなかった。グラスがぶつかる。乾いた音が、小屋に響いた。

 

「さぁ、宴だ」とロベルトは言った。短く、それだけ。

 

闇の中で誰かを待っていた一本の望遠レンズ。次にそれを掲げる勝者は、まだ決まっていない。ロベルトが掘り当てた今回の宝物は、こちらから引き取ることができる。トロフィーは、それを掴む覚悟のある者の手に渡る。

 

Even a dwarf is strong.

 

 
 
 

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